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医療法人の定款・寄附行為の変更

はじめに
定款とは、社団医療法人(持分の有無は関係なし)における最高規範であり、寄附行為とは、財団医療法人における最高規範です。すなわち、社団医療法人・財団医療法人における運営ルール規律となるものです。この規律に反する行為を行うことはできません。他の法人、会社、社団法人、財団法人などにおいても定款策定は必須となっています。日本で言えば憲法に相当するものです。医療法人の設立にも、この定款・寄附行為は必須となります。

一度定めた定款・寄附行為について全く変更することは不可能ではありません。個々の事情の変化などに伴い変更することは可能です。もっとも医療法においては、定款・寄附行為の具体的変更要件について定めていません。そこで、いかなる手続き・要件があれば定款・寄附行為が変更できるのか検討する必要があります。

▼ 定款の変更 ▼ 定款変更時における問題点 ▼ 寄附行為の変更 ▼ 知事の認可
 ▼ 登記 ▼ 結びにかえて

定款の変更

社団医療法人の定款変更手続きについては、医療法で規定されていません。厚生労働省がモデル定款として示しているものでは、社員の過半数が出席してその過半数の賛成で定款変更できるとされています。社員総会の決議が必要と記載されています。この厚生労働省のモデル定款を利用された医療法人の定款には、この規定が盛り込まれていることが殆どです。

すなわち、定款において定款変更の手続きが規定されています。医療法において要件が直接規定されていないことから、個々の医療法人の定款が定めた方法により変更手続きを行うことになります。

もっとも一般社団法人及び一般財団法人法において、定款の変更については3分の2以上が出席して、3分の2以上の賛成(特別決議)を要求しています(49条2項・146条)。会社においても定款変更を行う場合には、3分の2以上が出席して、3分の2以上の賛成(特別決議)を要求しています(会社法309条2項11号・466条)。他の法人の定款変更については、かなり慎重な手続きが直接要求されています。医療法人においてもこれらの法人の定款変更に準じた扱いを行う事が良いと思われます。

平成19年以前の厚生労働省のモデル定款には、3分の2以上が出席して、3分の2以上の賛成(特別決議)が要求されていました。なお、現在ではこの規定は削除されています。

定款変更時における問題点

社団医療法人において定款変更を行う場合に大きな問題が生じる可能性があります。持分の定めのある社団医療法人から持分の定めのない医療法人又は出資限度額医療法人に定款を変更して移行する場合です。この場合は、定款変更後に移行する持分の定めのない医療法人・出資限度額法人は、持分(払戻し請求権)が制限されることになります。現在の持分を有している社員に大きな影響か生じます。すなわち、持分という財産的権利が制約されることになります。

そこで、個人の財産的権の保証を考慮して、持分の定めのある社団医療法人から持分の定めのない医療法人又は出資限度額医療法人に移行するための定款変更については、全員の同意を得る必要があると解されます。

特に、持分のある社団医療法人から持分のない社団医療法人への変更は一方通行です。一度持分のない社団医療法人に変更した場合には、再度持分の定めのある社団医療法人に変更することはできません(医療法施行規則30条の39第2項)。このような医療法施行規則の定めを考慮すると、不利益を被る者全員の同意が必要と解されます。

寄附行為の変更

財団医療法人については、寄附行為の変更についてあらかじめ評議員会の意見を聴く必要があります(医療法49条の2第1項3号)。厚生労働省の示しているモデル定款においても同様の記述があります。具体的には寄附行為の変更について、理事及び評議員の総数の3分の2以上の同意が必要としています。

知事の認可

医療法人の定款・寄附行為の変更が他の法人における定款変更と決定的に異なるのは、知事の認可が必要である事です。一般的には、定款変更は法人内部の問題であり、個々の法律の定めた手続きを履践すれば当然に定款変更の効力は生じます。会社で考えると、会社法の手続きを履行すれば、定款変更の効果は生じます。社団医療法人・財団医療法人においては、「定款又は寄附行為の変更は、都道府県知事の認可を受けなければ、効力を生じない」と規定されています(医療法50条1項)。

ただ、定款の些細な事項について変更する場合まで知事の認可を要求するのは手続きが煩雑となり、負担も大きくなります。そこで厚生労働省令で定める事項について定款及び寄附行為を変更する場合には、知事の認可は不要となります。具体的に知事の認可が不要となるのは、@事務所の所在地の変更、A公告方法の変更です(医療法施行規則32条の2)。

登記

知事の認可を得ることで定款及び寄附行為の変更の効果は生じます。もっとも定款及び寄附行為の変更については登記しなければ第三者に定款及び寄附行為の変更の効力を主張することはできません(医療法43条2項)。

結びにかえて

医療法人に関する事項は、医療法・医療法施行規則のみならず、通知などのさまざま形で行政当局の関与が大きい分野です。過去に出された通知なども時代の変化に伴い改正されたりもします。常に行政当局の対応、医療法の改正・運用動向について注視しながら日々の運営・舵取りを行う必要があります。行政当局・行政機関の運用などを無視して進むことはできません。

医療機関の先生方は、医学のプロであって法律・実務運用のプロではありません。日々の診療業務に集中するためにも事務的な事項・法律的な事項・行政当局への対応については、専門家に委ねることが、更なる良質な医療サービスを提供できる体制を構築することに他なりません。

富山綜合法務事務所は、医療法務を得意とし、行政当局・行政機関の運用動向について注視しています。医療機関の先生方を法律的・事務的な側面からフルサポート致します。医療法人に関する事項・診療所における資金調達・業務提携・MS法人の設立・活用方法・救済、戦略的M&Aなど医療に関するサポートを行っています。定款変更のみならず、日々の身近な相談役として、行政機関に対する対応窓口として活動致します。

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