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持分のある社団医療法人の払戻し問題

現在、医療法人の大多数は、持分を有する社団形態です。なお、医療法の改正により、現在は新たに持分規定のある社団医療法人を設立することはできません。

既存の持分のある社団医療法人は、当面は経過措置型医療法人として存続することができます。この持分のある社団においては、出資額に応じて、払戻しを認めています。厚生労働省が示している医療法人のモデル定款においてもこのような規定(文言)があります。

この払戻し規定の解釈を巡り大きな問題が生じています。この文言解釈について裁判が提起されしばしば争われています。「出資払戻し」については、2つの考え方があります。

出資割合説(多数説)
出資した割合において払戻しを受けることができるとする考え方です。この考え方は、最高裁平成22・4・8、東京高裁平成11・11・17、東京高裁平成7・6・14、東京地裁平成15・11・18、前橋地裁平成18・2・24など裁判所の基本的な考えと言えます。

出資額説(少数説)
出資した額の限度でのみ払戻し請求することができる
とする考え方です。東京高裁平成20・7・31(後に最高裁にて否定された)

▼ 両者の違い・問題点 ▼ 多額の払戻しに関する対応策 
▼ 具体的な対策が進まない場合 ▼ 当事務所の関わり

両者の違い・問題点

出資割合説は、出資の割合を考慮することになります。出資当時は、僅かな出資額だったとしても、現在莫大な財産価値を有していれば、出資額以上の払戻しを得ることができます。 出資額説は、出資した額を限度として払戻しを得ることになり、出資額以上の払戻しを得ることはありません。

【具体例を用いながら、2つの考え方の違いを示してみます。】
X医療法人(総出資200万円)の設立時点において、20万円を出資したとします(出資割合は10%)。払戻しを受ける現在は、医療法人の財産価値が2億円であった仮定します。
★出資割合説では、2億円の10%である2000万円の払戻しを得ることができます。
★出資額説では、出資した額である20万円の払戻しを得ることができます。

このように、多数の考え方である裁判所の見解によれは、高額な払戻しに応じる必要があります。高額の払戻し金が貰えるからこそ、多くの場合で争いになります。遺産相続の場合も同様ですが、多くのお金が貰える可能性があれば、欲しくなるのが人情です。現金で多額の払戻しを行えば、医療法人自体の存続を危うくする事態となります。

現在多くの医療法人が持分を有する社団であることを考えると、今後ますます同様の争いは多くなることを想像するのは難しくありません。早急に対策を施す必要があります。既に待った無しの状況です。 特に最高裁において判断されたことを勘案すれば、この意味は大きいです。

多額の払戻しに関する対応策

多額の払戻しを防止する方法としては、持分を放棄する(持分の無い医療法人)、出資限度額医療法人に移行する。この2点が考えられます。持分を放棄すると一切の持分は無くなります。払戻しを受けることはできません。出資限度額医療法人については、出資額においてのみ払戻しを得ることが可能です。

持分の放棄、出資限度額医療法人のいずれの場合にも定款変更が必要です。いずれにおいても一度移行すると持分の有る社団医療法人に戻ることができません(後戻り禁止)定款変更を行うにも定款に記載された手続きを行う必要があります。知事の認可も必要です。

医療法人の定款変更の詳細はコチラ
出資限度額医療法人の詳細はコチラ

具体的な対策が進まない場合

設立当初より医療法人の価値が大きくなっている場合(多くの医療法人が該当)は、持分払戻し対策も一筋縄では進みません。持分を有しているのは、医療法人の社員(最高責任者)である事から、利害に関わります。だからと言って放置できる問題ではありません。

持分の払戻しに関する対策は、社員総会(医療法人の最高意思決定機関)で決議する必要があります。決議要件についても医療法に定められており、すんなり決議ができるとかぎりません。

多くの社員の同意が得られない場合でも、何らかの手法を用いて対策を進める必要があります。持分払戻し対策は、医療法人の存続をかけた大きな問題です。上手く進まない場合も具体的な手法についてここでは公開しておりません。まずは御相談ください。

持分の払戻し対策は、必ず必要となります。持分のある社団医療法人である以上、持分払戻しが発生しない事はありません。先延ばしにすればするほど、払戻し額が高額になり、対策が困難となります。早急な対応が必要です。

当事務所の関わり

富山綜合法務事務所は、医療法に精通しており、医療法人M&A(合併・買収)、資金調達などの医療法務を得意としています。また、行政当局に対する許認可申請にも精通しており、設立から実際の運営に至るまでワン・ストップで総合的なリーガルサービスを提供しています。

現在は、出資限度額法人(払戻し額を制限できる)も認められています。医療法人・病院・診療所を守るためには、早急に移行を含めた対策が不可欠です。高額な出資払戻しを行えば、存続が危うくなることをしっかりと認識するべきです。決して対岸の火事ではありません。出来る限り最善の方法をご提案致します。まずは、お気軽にお問い合わせください。

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